Journal de la Rive Droite 右岸通信

物理的には私は右岸にいる 精神的には左岸にいる これは右岸と左岸に解離している私の通信記録

台風

DIDの人たちは恋愛をどうしているんだろう。とコメントをもらって、確かにどうしているんだろう。と思った。

私にはそこまでは全く考えが及ばないというか、そういう発想もなかった。

検索してみると人格ごとに違うパートナーがいる人もいるようだった。

確かに性的に奔放な人格を持つ人も少なくないというし(これは一種の自傷ともいえるし、恐らくはかつて害を加えてきた性別を性的に誘惑し、性的に支配できることに快感を得る復讐心といった意味合いが根底にありそうだが)言われてみれば、まあ可能だろうな。

創作なのか実際なのかわからないけれど、全ての人格が好きになれた人にめぐりあって結婚したという話もあった。これは本当に奇跡だよなあ。

 

私には小さい私という、厳密には同じ”私”だけれど、感覚も生きている時間も違う私がいる。

小さい私の存在は彼に会うまで私もわからなかった。彼女は抑圧という木が鬱蒼とある森の中、さみしさという大きな湖のほとりでずっとひとりだった。彼女はそこで、社会的に生きることは私に任せ、ひっそりと過ごしていた。

彼女がそこにいる理由は人が、世界が怖いからだ。そこにいるほうがいいと思っている。

抑圧の木は自分で植えたのか、そこにもともとあったのか、もはやわからない。

良くも悪くも、その木々に守られ、彼女はそこにいる。

それでも、ときどき、空には暗雲が立ちこめてきて、恐怖にうち震え、ますます隠れてしまう。

あまりにも深い抑圧の森なので、私自身もそれを把握していなかった。

把握できたのは、それまで誰も入ってこなかった森に彼が難なくやってきて、誰も見えていなかった彼女に当たり前のように彼が話しかけたからだ。

小さい私はとても嬉しかったようだ。なんせ自分のことがちゃんと見えて、しかも共感的理解を示してくれる人などいなかったからだ。

そこからである、小さい私が私の身体をすごい力で操縦するようになったのは。

小さな私は他者からの共感的理解を渇望していたらしい。

しかし、それにはまず小さい私が見える人でなければならないので、いままでは成立し得なかった。

彼はそれをなぜかはよくわからないが、成立させてしまった。

小さな彼女にとっては共感的理解=彼である。彼を渇望するようになったのだ。

彼女はまるでぱちっと目が覚めたように、彼に会いたいがために、ものすごい荒業を始める。

記憶の連続性はあるが、あれは解離性遁走に限りなく近い状態だったと思う。

私としてはまるで猛スピードのベルトコンベアにのせられているようで「え?え?なにこれ?どうなってんの?」という感じ。

実は、私は昔から家出癖があって、家出のときは大抵、そんな調子でオートマチックに身体が動き、どうやってそこへ行ったか、行く手だて、行く料金、持っていくものをどのように考えたか用意したか、あまり思い出せないのだが、このときもまた同様で、私は家出をした。

その後もいろいろな出来事を経て、私は私に解離があることを知ったわけである。

 

家出したときの私はご飯ものどを通らない状態が続いていた。彼はそんな私を前に、かつて私が彼を含めた何人かと一緒に食事をしたときに頼んだものを全て注文した。

全部好きなんだろ、どれか食べれないの。

いらないという私をよそにそれらを箸で小さく小さくして口まで運んでくれた。

人は口元までそのように持ってこられると食べないわけにはいかないものなんだなと私は初めて知った。

食べたら、彼はほら、食べれる食べれると笑うのだった。

私は子ども扱いされているみたいで、ちょっとした怒りとはずかしさを感じてもいたが、同時に、泣きそうになっていた。

子ども扱いではないのだ。私は本当に子どもだった。彼には子どもの私が見えるのだ。

たぶん、彼も心の中に大きなダメージを受けた子どもの自分がいるから見えるのだ。

しかし、彼はそれに無自覚であり、このような行動は意識的には行われてはいないらしい。

それはたとえば、私の気を引こうとか、下心からくるものではないということだ。

彼は最後にあったときに私に言った。

「お前といるときの俺は虚像だ、いつもと違う」と。

”実像”でいるときの彼はなんで俺はさしてかわいくもない人妻と会う必要があるのだろう、バカらしい、全然好みじゃないと本気で心から思っていそうだ。

うん、まあ、それが目に見えている現実世界では、正解なんですけどね。

 

小さな私のことは旦那さんも知らなかった。私も知らなかった。

まさか結婚してから、こんなことが起ころうとは思いもしなかった。

それまでの我が家の暮らしは安定していて、私たちは仲もすごくよかったのだ。

旦那さんにしてみればなんなんだよ!と怒りたくもなるだろう。

彼にしてみたってなんなんだよ!と逃げ出したくもなるだろう。

でも、私だってなんなんだよ!って思ってしまうんだよ。

私の解離は台風のように心優しき旦那さんや彼の日常を狂わせてしまったみたいだ。

台風が出来る原因を先日、私は検索した。

解離が起こる原因となんだか似ているなと思った。

いろいろな条件が組み合わされて、しかし、そこにはやはりもともと不安定になりやすい海域があるために、台風は起こるのだ。

解離が台風だとしたら、私の人生における台風一過の秋晴れとはなんだろう。